日々、制度や数字と向き合う中で、ふと「努力だけではどうにもならない」と感じる瞬間はないでしょうか。今回は少し視点を変えて、現代を生きる私たちの心に響く、二人の偉大な思想家の教えを紐解いてみたいと思います。
「社会の中」の孔子、「社会の外」の老子
儒教の始祖である孔子と、道教の根幹をなす老子。二人は共に対人や処世の道を説きましたが、その立ち位置は対照的です。
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孔子(有為):社会の中から理想を追う 「仁・礼・徳」を重んじ、教育や制度、個人の努力によって秩序ある理想社会を築こうとする能動的な思想です。
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老子(無為自然):社会の外(宇宙)から本質を見る 人為的な営みを捨て、万物の根源である「道(タオ)」に従い、あるがままの姿に還ることを説く**受動的(かつ本質的)**な思想です。
誤解を恐れずに言えば、孔子の教えが「強者のための自己研鑽」であるなら、老子の教えは「(時に心折れそうな)弱者のための救済」とも言えます。世の中の不条理に直面したとき、老子の言葉は「穏やかに、かつしたたかに」生きる極意を与えてくれます。
老子が教える「したたかさ」の極意
老子の言葉の中から、現代人の心に効く三つの教えをご紹介します。
1.柔弱(じゅうじゃく)は剛強(ごうきょう)に勝つ
「天下の柔弱なるもの、水に過ぐるは莫(な)し。而(しか)も堅強を攻むる者、能(よ)く勝るあるを知る莫し。其れ以て之に易(か)わるもの莫し。」(第七十八)
世の中に水ほど柔らかく、弱いものはありません。しかし、堅く強いものを打ち破る際、水に勝るものもありません。 真に強い人とは、力で押し通す人ではなく、暖簾(のれん)のような柔軟さと「復元力(レジリエンス)」を持つ人です。どんな困難に直面しても、柳のように受け流し、また元通りに戻る力。それこそが、現代社会を生き残る真の術なのです。
2. 謙虚な心で「偏り」をなくす
「高き者は之を抑え、下(ひく)き物は之を挙(あ)ぐ。余り有る者は之を損(へら)し、足らざる者は之に与(あた)う。」(第七十七)
「道(タオ)」の前では万物は平等です。行き過ぎたものは抑えられ、足りないものは補われる――。世の中には常に、平らにならそうとする力が働いています。 絶頂にあるときは謙虚さを忘れず、どん底にあるときは「次は引き上げられる番だ」と構える。自分で自分の心の偏りを整え、調和を図ることが大切です。
3.迷ったときほど「根本」へ立ち返る
「虚を致すこと極まり、静を守ること篤(あつ)ければ、万物並び作るも、吾以て其の復(かえ)るを観る。夫れ物芸芸(うんうん)たるも、各々その根に復帰す。」(第十六)
問題が起きたとき、私たちはつい枝葉末節に囚われたり、周囲の雑音に振り回されたりしてしまいます。しかし、万物は最終的にはその「根」へと帰っていきます。 悩み、迷ったときこそ、一度足を止めて静寂の中に身を置き、「自分にとって本当に大切なことは何か」という根本を見つめ直してみてください。答えは意外とシンプルな場所にあるはずです。
社労士やFPとして活動する中でお会いする方々も、日々、社会という荒波の中で「有為(努力)」を積み重ねておられます。しかし、時には「無為(あるがまま)」の視点を持ち、自分の心を守ることも同じくらい重要です。
老子の智慧を心の片隅に、明日もまた、したたかに歩んでいきましょう。
「制度やお金の悩みも、根源を辿れば『どう生きたいか』というシンプルな問いに突き当たります。法的な手続きだけでなく、お一人おひとりのライフスタイルに寄り添った解決策を一緒に考えてまいります。」